信長の傭兵 (角川文庫)



信長の傭兵 (角川文庫)
信長の傭兵 (角川文庫)

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枯淡の面白さあるいは火縄の匂い

津本先生は、時代物を多く書かれている、大御所の作家であるときく。なるほど風格が、文にあるといってよい。
信長や秀吉といった、説明要らずの大物についての作も多いが、今回は、やや無名の人物を活写している。この類の作では英雄を仰ぎ見る主人公を描写しながら、その目を通して、英雄についても語るという、なんというかいつもと同じ話である。

内容は、現在の科学からすれば、大したことがない。いわば、縁日の射的のような話である。だが、祭りのそれとは、その匂いが違う。いってみれば、硝煙の匂いと火縄の匂いの違いだろうか、この手触りが、この作者を他の同世代と引き離す理由の一つだろう。

主人公は、未知の兵器である鉄砲を相手に、調達し、使い手を組織し、訓練を重ね、信長の天下布武の助けになろうと、がむしゃらに尽くす、その中で決して天才とはいえぬ彼の個性と比べられる、英雄信長の個性が際立つ、というやはりこれまでと同じ話である。

ここで一つ、時代物について、述べておきたい。私は、もう六十年も前に従軍し、戦地をこの目で見てきたが、その経験からすると、ここで書かれている戦は、いささか奇妙に見える。どこが、というわけでもないのだが、なんというか干し飯の匂いと飯ごうの匂いの差というべきか、ともかく、私の経験した戦争はこうではなかった。



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